捧げもの
□狐の嫁入り
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「テニスコート教えろぃ」
「・・・・自分、立海の丸井ブン太ちゃうん?」
無駄に豪華な氷帝の門をくぐったところで適当に見かけたやつに声をかけると、長髪で丸眼鏡をかけたそいつは俺のことを凝視した。
「あ。お前」
そいつのことは俺の記憶にも鮮明に残っていた。
忍足侑士、向日のことを調べるついでに調べてもらった奴。
他でもない向日のダブルスパートナーで、あの日の試合でも嫌というほど信頼関係を見せ付けられた気がした。
「へぇ、知っとるもんやな。今日は偵察か?」
『偵察』
あの日氷帝は青学に敗退して、全国へは進めないことになっていたのだが、東京都の推薦で突如全国大会への出場が決定した。
だから、忍足は『偵察』という言葉を口にしたのかもしれない。
「んーまあそんなとこ」
「正直でええな、コートはこっちや」
断られるかと思いきや、忍足は親切にもコートまで案内してくれた。
さすが名門私立氷帝学園・・といったところだろうか。
中学校とは思えないほどのコートの広さ、設備も充実していた。
「どや・・・氷帝は?」
「んーまあ、施設だけは馬鹿でかいな、流石に」
「褒め言葉として受け取っとくわ」
「遅ぇーぞ侑士!早くしろ!!!!!」
遠くから聞こえた声に思わず胸が高鳴った。
・・・・アイツだ。
向こうにぴょんぴょんと跳ねているワインレッドの髪の少年。
俺にはすぐにそれが誰かわかった。
忍足は「堪忍!岳人」と言いつつ、少し歩く速度を速めたから俺も自然に足を速める。