バ ト テ ニ
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今までに残酷な場面やそれこそ人が殺される瞬間を何回か目撃したけれどこれほどまでに恐怖は感じなかった。
所詮安全な場所で見ていただけであったから、自分の身には危険は及ばないと思っていたから。
でも。
実際に隣りの矢を見るとまだ震えが止まらない。
死ぬことがこんなにも怖いなんて。
唇を噛みしめ、爪が食い込むくらい手を握り締める。
頭の中で流れる映像は、血まみれの自分。
矢が胸を貫き、苦しそうにのた打ち回る自分。
そんな頭の中の自分が、あまりにもリアルで痛々しくて俺は知らないうちに胸を強く抑えていた。
息は乱れて、いやな汗が頬を伝う。
そうしたとき、不意に頭に侑士の言葉が浮かんだ。
『どんなことがあっても、生き延びや。例え、自分の手を血に染めることになってもや。』
俺は自分の手を見つめた。
土色に汚れた、白い手。
この手で、人を・・・・殺す?
今の俺には殺すことはごく自然なことのように思われた。
手を血で真っ赤に染めて笑う俺。
優勝した俺。
生き続ける俺。
どんな形であっても生きていたいと思った。
たとえ、殺戮者という最低な人物まで堕ちたとしても。
立ち上がって歩き出すと足取りはさっきまでの重い気持ちが嘘のように軽やかだ。
もし誰かが出てきても殺せばいい。
そんな心構え一つで人間変わるものだ。
今にも口笛をふきそうな足取りで俺が歩いていると、俺の横から何かが這いつくばってきた。
銀色の髪、長袖のレギュラージャージ、そしてその首から掛かるのはシルバークロスのネックレス。
キリスト信者でもないのにいつもネックレスをしていたアイツ。