捧げもの
□雨恋。
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「あーーー降ってきやがった」
午前はあんなに晴れ渡った空だったのに、向日岳人は気分屋な空を恨めしく見上げた。
「どーすっかな・・・ったく、何でよりによって今日なんだよ」
岳人は悪態をつきながら下駄箱からシューズを取り出した。
はき慣れたシューズが、僅かに湿り気を帯びていた。
「あー・・・マジで降ってるよこれ」
昇降口に出た岳人は、一向に止みそうにない雨を見てため息をついた。
一瞬雨が止むまでココで待つことも頭によぎらないことはなかったが、雨は止む気配も見せなかったしむしろもっと強くなってきそうだった。
「・・・・走るか」
となると、岳人は走るしかなかった。
靴紐を結びなおし、鞄を頭に載せ走り出そうとしたとき、突如岳人のことを呼び止めた人物がいた。
「向日先輩」
「?」
「奇遇ですね、今帰りですか?」
「・・・・日吉じゃん」
岳人を呼び止めたのは同じテニス部で2年の日吉若だった。
日吉はその綺麗に切りそろえた前髪の下から岳人を見据えていた。
岳人にとって日吉は不思議な後輩だった。
風貌やプレースタイルもかなり変わっているが、何より性格だ。
岳人と正反対な性格だったが、どこか自分と日吉は似た波長があると岳人は感じていた。
だから、岳人は性格が悪いと言われている日吉に対して悪い感情は抱いていなかった。
むしろヘラヘラ笑っている同じ2年生の長太郎の方が自分とは合わない性格だと思っていた。
「何、してるんですか」
日吉は薄い唇を片方上げて微笑を浮かべた。